光を当てると縦にひとつの線が出る様子が猫の目に似ていることから、キャッツアイと名づけられました。この猫の目のような効果(シャトヤンシー効果)は、クリソベリル特有のものではありませんが、「キャッツアイ」と呼ばれる宝石は、一般的にクリソベリルのものを言います。
世界でもっとも有名なマハラニ・キャッツアイ
スリランカ産の58.19カラットの並外れた大きさです。
蜂蜜色、そしてシャープな光の帯で、同種の宝石の中でも最高級の1つです。
(アメリカのスミソニアン国立自然史博物館所蔵)

By thisisbossi from Washington, DC, USA – 2009 04 19 – 4694 – Washington DC – Natural History Museum – Maharani Cat’s Eye, CC BY-SA 2.0, Link
それでは、クリソベリル・キャッツアイの歴史や伝説に触れてみましょう。
クリソベリル・キャッツアイのプロフィール
クリソベリル(chrysoberyl)の語源と和名
クリソ(chryso)は、 ギリシャ語で「黄金」「金」を意味し、ベリル(beryl)は、 ギリシャ語の「beryllos」に由来し、古くから緑色の宝石を指す言葉です。
和名が「金緑石」(きんりょくせき)ですが、そのものずばり直訳された名前なのです。
ベリルと聞くと、エメラルドやアクアマリンに代表される鉱物種を思い浮かべます。ベリリウムの酸化化合物であるところは、同じですが別の鉱物です。
クリソベリルは、黄色や黄緑、緑、褐色で濃淡に幅があります。
クリソベリル・キャッツアイの別名
Cymophane(サイモフェーン、シモファン)は、クリソベリル・キャッツアイの別名です。ギリシャ語で「波打つ(cyma)」と「現れる(phanes)」を組み合わせた言葉に由来します。
また、日本ではクリソベリル・キャッツアイも含めて、キャッツアイ効果をもつ石を総じて「猫目石」と呼ばれます。
クリソベリルの鉱物学的性質と宝石名(変種)
クリソベリルの化学式は、BeAl2O4です。つまり、アルミニウムとベリリウムの酸化物です。
クリソベリルは、主に四つの宝石に分類されます。アレキサンドライトは、外見や現象(変色効果)がクリソベリルと違っていますが、同じ鉱物です。
クリソベリル

クリソベリル・・・キャッツアイ効果の無いもの
クリソベリル・キャッツアイ・・・キャツアイ効果があるもの
アレキサンドライト・・・自然光では緑がかっているが白熱光では赤味がかった色に変化するもの(変色効果)
アレキサンドライト・キャッツアイ ・・・アレキサンドライトであり、かつ、キャッツアイ効果があるもの
アレキサンドライトの変色効果
アレキサンドライトの変色効果は、主としてクロムによるものです。左が自然光では緑青に見えるアレキサンドライトが白熱光では、赤紫に見える。


キャッツアイ効果は、クリソベリル特有のものではない
カボションカットにした場合、一筋の光の帯が現われるキャッツアイ効果は、シャトヤンシー効果とも言います。フランス語で猫を意味するChat(シャト)に由来します。
このキャッツアイ効果は、石の内部に平行に存在するインクルージョンが光を反射することによって起こります。
クリソベリル・キャッツアイのことを、一般的に「キャッツアイ」と呼びますが、他の石にもキャッツアイ効果はあります。
そういう場合は、石の名前を冠したキャッツアイの名で呼ばれます。たとえば、ネフライトの石で、キャッツアイ効果を持つものをネフライト・キャッツアイと呼びます。
ネフライト・キャッツアイ

クリソベリルは、硬い
クリソベリルのモース硬度8.5であり、ダイヤモンド、コランダム(サファイア・ルビー)に次ぐ硬さで硬くて耐久性があります。
17世紀〜18世紀のスペインやポルトガルでは、ブラジル産のクリソベリルが流行しました。
ブラジルからダイヤモンドも発見され小粒を集めた大きな指輪が作られました。硬くて耐久性があるので小粒のクリソベリルも、ブリリアントカットされました。
18世紀ポルトガルの「デヴァン・ド・コルサージュ」またはストマッカー。
クリソベリル、ルビー、エメラルドで作られている。リスボン国立古代美術館所蔵。

By Manederequesens – Own work, CC BY-SA 4.0, Link
クリソベリル・キャッツアイの石言葉
クリソベリル・キャッツアイの石言葉は、
守護・希望・慈愛・寛大な心
です。
守護
クリソベリル・キャッツアイは、暗闇でも細い光の筋を放つことから、古くより持ち主を危険から守る守護石と考えられてきました。進むべき道を照らし、不安や災いを遠ざけながら安全へ導くという願いが、「守護」の石言葉に込められています。
希望
暗闇の中でも消えることなく輝くキャッツアイ効果は、困難な状況でも未来への光を見失わない姿になぞらえられます。どんな逆境の中でも、可能性を見いだし、新たな一歩を踏み出す勇気を与える石として、「希望」を与えます。
慈愛
猫の瞳のように優しく輝く光は、温かな愛情や思いやりの象徴とされています。自分だけでなく周囲の人々にも心を配り、互いを支え合う気持ちを育むことから、クリソベリル・キャッツアイには「慈愛」の石言葉が与えられました。
寛大な心
一本の光が石全体を包み込むように見えることから、広い視野と包容力を象徴するとされています。他人の違いや失敗を受け入れ、冷静で穏やかな心を保つ力を授けるという願いが、「寛大な心」の石言葉につながっています。
クリソベリル・キャッツアイの神話と伝説
ジョージ・フレデリック・クンツ『図説宝石と鉱物の文化誌』には、護符の石クリソベリル・キャッツアイが、次のように書かれています。
クリソベリル
ジョージ・フレデリック・クンツ著 (鏡リュウジ監訳) 『図説宝石と鉱物の文化誌』 原書房
クリソベリルの一種であるキャッツ・アイは希少価値が高く、セイロンの人々は邪悪な精霊に対抗するための護符として使っている。アンセルムス・デ・ブートは、インドでこの宝石が高く評価されていた証拠として、古代ローマのルシタニアで金貨九〇枚の値打ちとされたキャッツ・アイが、インドでは金貨六○○枚で売れた例を挙げている。セイロンでは、最高品質の原石も見つかっている。
※アンセルムス・デ・ブート(1550年〜1632年)は、フランドルの人文主義者で博物学者、宝石学者であり、ルドルフ2世の侍医であった。『宝石と石の歴史』(1609年)の著作がある。
この文章では、アンセルムス・デ・ブートの引用で「古代ローマのルシタニアで・・・」云々とありますが、古代ローマの文献でキャッツアイについて述べたものはありません。(プリニウス『博物誌』など)
アンセルムス・デ・ブート氏が、どこでその情報は得たのか不明ですが、更にヨーロッパ中世においても、キャッツアイについて言及した文章が見当たりません。
当然ながら鉱物学が発達していない時代ですので、クリソベリル・キャッツアイという概念はありません。「キャッツアイ効果のある石」というものがあっても良いはずですが無いのです。
しかしながら、古代インドでは、キャッツアイと思しき概念の石があります。
古代インドのヴァイドゥーリヤ(Vaidurya)
ヴァイドゥーリヤ(वैडूर्य, Vaidūrya)という名称が用いられ、後に(中世に)キャッツアイと結び付けられました。
ヴァイドゥーリヤはサンスクリット語で「ヴィドゥーラ(Vaidūrya)産の石」を意味すると考えられており、具体的な宝石が何かわかりません。
『ガルダ・プラーナ』(Garuda Purana)(詳しくはWikipedia Garuda Purana)では、ヴァイドゥーリヤの色や護符としての役割が書かれていました。
色は蜂蜜色、黄緑色、孔雀の羽のような色、光がよく集まるものなどが良品とされています。色見については、現代のクリソベル・キャッツアイに通じるところもありますね。
また、ヴァイドゥーリヤは、災難・悪い影響・不吉なできごとから持ち主を守ると書かれています。後世のインド占星術では、この考えが発展し、クリソベリル・キャッツアイはケートゥを象徴する宝石として重視されるようになりました。
また身につけると幸運や財運、成功をもたらすともあります。
しかし、キャッツアイ効果について全く書かれていません。
ところが、中世以降のサンスクリット文献になると、
①viḍālākṣa(猫の目)という別名をもつ
②石の中央に白い線がある
と、具体的にキャッツアイ効果をもった石であることが述べられるようになりました。
ただし日本の仏教では、ヴァイドゥーリヤ=瑠璃=ラピス・ラズリ
宇宙に星が輝いているように見えるラピス・ラズリ

『無量寿経』や『阿弥陀経』の極楽浄土の七宝に「吠瑠璃(びるり)」が登場します。これは中国に仏教が移入されて、サンスクリット語のVaidūrya(ヴァイドゥーリヤ)の音写されたものです。
これが、「吠瑠璃(びるり)」の略語である「瑠璃」となり、Vaidūryaは「瑠璃」であり、ラピス・ラズリであるという風に考えられるようになりました。(詳しくは、【12月の誕生石 ラピス・ラズリ】の神話と伝説|復活の瑠璃石)
つまり、Vaidūrya(ヴァイドゥーリヤ)は、クリソベリル・キャッツアイ説もありますが、ラピス・ラズリ説もあるのです。
参考文献
- 『宝石言葉』 著者 山中茉莉 発行 八坂書房
- 『価値がわかる宝石図鑑』著者 諏訪恭一 発行 ナツメ社
- 『ジェムストーン百科全書』 著者 八川シズエ 発行 中央アート出版社
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