珊瑚(コーラル)は、女の子の成長と幸福を願う桃の節句で、お祝い石として定着したことから、日本では3月の誕生石となりました。

 

その色合いの神秘性から、古代から高い評価を受けてきた宝石です。

 

この記事では、珊瑚についての特徴や意味と伝説を探ってみましょう。

 

 

珊瑚はそもそも植物か?動物か?

 

珊瑚は、見た目が海の藻の一種のように見えるので植物と思いがちですが、イソギンチャクやクラゲの仲間の動物です。刺胞動物(しほうどうぶつ)と言います。

 

刺胞動物とは、刺を発射させる細胞(刺胞細胞)をもつ生物群です。

 

クラゲのように海の中を泳ぐ漂泳性のものと、岩盤に吸着する付着性(ポリプ型)のものがあります。

 

珊瑚は付着性のもので、動くことはありません。そして、ポリープというイソギンチャクのような触手で微生物を捕食します。

 

珊瑚は、ひとつひとつのポリープが個体ですが、石灰質の骨格を形成し群体を作ります。

 

珊瑚の骨格の遺骸が長い年月をかけて積み重なることでつくられた「地形」がサンゴ礁です。

 

さて、このサンゴ礁から、宝石が採れるのでしょうか?違います。ここから、宝石の珊瑚は採れません。

 

 

宝石珊瑚と造礁珊瑚

 

サンゴ礁を作り出す珊瑚を「造礁珊瑚(ぞうしょうさんご)」と言います。

 

造礁珊瑚

 

 

宝石として加工されるのは、「宝石珊瑚」という種類です。

 

つまり、珊瑚は、「宝石珊瑚」と「造礁珊瑚」の2種類に大別されるのです。

 

どういう違いがあるでしょうか。

 

宝石珊瑚 造礁(ぞうしょう)珊瑚
深海に生息しているものが多く、樹状の骨格を作る。 比較的浅い海域に生息しておりサンゴ礁を形成する。
光合成しない。 「褐虫藻」を共生させ光合成をし、そこからエネルギーを得ている種が多い。
ポリープの触手が8本で「八放サンゴ」と呼ばれる。 ポリープの触手が6の倍数で「六放サンゴ」と呼ばれる。
高知、鹿児島、沖縄で珊瑚漁が行われている。 サンゴ礁は種子島のある鹿児島県大隅諸島が北限でそれより南の海に分布。

 

アカサンゴ

 

 

宝石珊瑚は、共同で樹状態の美しい色合いの骨格を作ります。

 

これらの骨格は、小指台の太さになるまで実に50年近くもかかります。それほど希少な宝石なのです。

 

宝石珊瑚の主な種類と分布地

 

単に色合いが違うだけではなく、違う種類の珊瑚です。

 

  • アカサンゴ:四国、九州、小笠原諸島付近に分布
  • モモイロサンゴ:南シナ海に分布。
  • シロサンゴ:南シナ海に分布。
  • ミゾサンゴ:南シナ海に分布。
  • ベニサンゴ:地中海に分布。
  •  

  • イボモモイロサンゴ:高知県に分布。
  • ゴトウモモイロサンゴ:長崎県五島列島に分布
  • 深海サンゴ:ハワイやミッドウェーの深海に分布

 

古くは、地中海産の珊瑚がペルシャを通じて中国に入荷されていました。

 

日本は、奈良時代に中国から輸入していたのです。

 

それ以降も、珊瑚は、「胡渡(こわたり)」という名称で大変人気がありました。

 

明治以降 日本は珊瑚の輸出国に

 

珊瑚は、今は真珠とともに日本が世界に誇れる産地ですが、日本で発見されたのは江戸時代の終わり頃です。

 

本格的に珊瑚漁が始まったのは、明治時代以降です。

 

土佐沖で採れる「血赤サンゴ」(アカサンゴ)が世界的に有名になりました。

 

宝石珊瑚の歴史とその意味

 

ギリシャ神話の珊瑚

 

 

見た者を全て石にしてしまうという有名なメドゥーサの話です。

 

メドゥーサは、元々は怪物ではなく、髪の美しい美少女でした。

 

海神ポセイドーンとアテーナーの神殿の1つで交わったためにアテーナーの怒りを買ってしまい、髪の毛が蛇の怪物にされてしまいました。

 

しかし、メドゥーサは、元はコリントスであがめられたギリシア先住民族の女神だと言われています。

 

これに抗議したメドゥーサの姉たちも同じように怪物にされたのです。

 

メドゥーサの姉妹をゴルゴンの三姉妹と言い、メドゥーサは末の妹で、唯一不死身ではありませんでした。

 

ゼウスとアルゴスの王の娘ダナエの息子ペルセウスにメドゥーサは、首を切られてしまいました。

 

ペルセウスが空飛ぶサンダルで空を駆け出した時、メドゥーサの首から飛び散った血が、それがペガサス(天馬)になり、地中海に滴り落ちたものは赤いサンゴになりました。

 

ローマ時代の珊瑚

 

プリニウスの著作『博物誌』(紀元77年に完成)にも、メドゥーサのギリシャ神話が書かれています。

 

海藻の茎がゴルゴンの首にふれるとたちまちその魔力を受けて枝も葉も石のように固くなってしまった。

 

海のニンフたちは、この不思議な魔力をためすために、次々に海の植物を採ってきた。

 

おもしろいことに何度やっても同じ結果であった。ニンフたちはこれらの海藻の種子を海の中へ投げ込んだ。

 

それで今日でもサンゴはこの同じ性質を保持していて空気に触れると硬くなり、水中では柔らかな枝であったものも水の中から取り出すと石になってしまうのである。

 

海藻の類と思われている感じがします。血そのものが珊瑚になるのではなく、メドゥーサの首に触れた海藻が珊瑚になる話です。

 

当時の珊瑚の意味も書かれています。

 

インドの予言者は危険を払うのに力のあるお守りだと信じている。

 

嬰児のお守りとして身につけると、守護してくれると信じられている。

 

焼いて粉末にしたものを水に入れて飲むと、腹痛、膀胱疾患、結石に結果がある。

 

枝の灰は吐血に対する有効な治療剤である。

 

ローマ時代も厄除け、お守りだったのです。

 

日本での珊瑚の歴史

 

珊瑚が初めて伝来したのは、仏教の伝来の時期と同じ頃だと伝えられています。

 

仏教では、珊瑚は極楽浄土を飾る七宝のひとつとされているからです。

 

七宝の種類は、教典によって違いますが、たとえば『無量寿経』では、金・銀・瑠璃(るり)・玻璃(はり)・硨磲(しゃこ)・珊瑚(さんご)・瑪瑙(めのう)です。

 

※瑠璃(るり)は、青色、青紫色の宝石と言われる。ラピス・ラズリのことだとされる。玻璃は、水晶。硨磲は、シャコ貝の貝殻。

 

そして、それを指し示すように正倉院の宝物の中に、珊瑚のビーズや珊瑚の原木があります。

 

聖武天皇、光明皇后らが奈良東大寺の大仏開眼会(752年)で使用したとされる冠には、珊瑚が使用されているのです。

 

 

日本では、珊瑚は採れませんでしたが、地中海の珊瑚がシルクロードを通じて輸入された大変貴重な物ではありましたが、仏教の七宝としてのイメージが形作られてきました。

 

また室町時代の終わりごろから起こったとされる七福神信仰と結びつき、招福・魔除けの七福神が宿る宝として、珊瑚が重宝されるようになります。

 

続く